ネクタイの斜めの縞には、色や形の好みだけでは説明できない歴史があります。英国では、所属する連隊や学校、クラブとのつながりを示す役割がありました。分かる人には、胸元の柄が「どこの一員か」を伝える印になるのです。

ブルックスブラザーズが、定番のレップタイに英国と逆向きの縞を取り入れたのはなぜでしょうか。ブランドが伝える歴史を読むと、英国の装いをアメリカへ持ち込む際に、柄の意味も捉え直したことが見えてきます。ここでは、その定番の由来をたどります。全時代・全製品の縞の向きに共通するルールを説明するものではありません。

英国のネクタイは、所属を伝える印でもあった

レジメンタルという言葉は、連隊を意味するregimentに由来します。ブルックスブラザーズの日本公式解説は、英国の軍人たちが所属する連隊の証として、ストライプのタイを締めていたと説明しています。出典:日本公式「レップタイ」

この文脈では、配色や縞の組み合わせには集団ごとの意味があります。単に「青が好きだから選ぶ」という装いとは異なり、着ける人と組織の関係が柄に表れるわけです。

所属とネクタイの結びつきは、今も具体例を確認できます。英国のHonourable Artillery Company(HAC)の公式案内では、レジメンタルタイなどを会員向けに販売し、スポーツでの功績を示すHonours Tieには着用資格も定めています。ネクタイが、会員であることや活動の実績に結びついた品であることが分かります。出典:HAC「Ties (members only)」

ブルックスブラザーズのモナコのブランドサイトも、英国のレジメンタルタイのスタイルが社交クラブや寄宿学校へ取り入れられたと説明しています。軍隊だけでなく、学校や社交の場にもつながる服飾文化でした。出典:Brooks Brothers Monaco「Ties of a Different Stripe」

縞を反転させ、所属の意味から切り離す

ブルックスブラザーズの沿革では、逆向きのレップタイを紹介した年を1902年としています。韓国公式年表では、この出来事に「DEMOCRATIZING THE REPP TIE」という見出しを付け、従来の意味から離れ、より多くの人が楽しめるスタイルへ広げたと説明しています。出典:ブルックスブラザーズ韓国公式年表・1902年

モナコのブランドサイトは、その考えをもう少し具体的に記しています。スタイルを広く開くため、縞の方向を反転させて、形と意味を切り離したという説明です。

この説明に沿えば、反転には見た目を変える以上の意味があります。英国の特定の集団に所属しているという意味を引き継がずに、ストライプの美しさを装いへ取り入れる。そのための変更として、ブランドは逆縞を位置づけているのです。

なお、これらはブランドが後年にまとめた沿革の説明です。1902年当時の企画書や担当者の記録で、動機を直接確認したものではありません。

「階級への反抗」より、着る人の選択を広げたと読む

英国の学校やクラブの文化を背景に考えると、逆縞には、所属に結びついた装いをより広い人へ開くという解釈ができます。ブランドが使う「民主化」という言葉も、ここでは柄を楽しむ人の範囲を広げる意味で読むと分かりやすくなります。

ただし、今回確認した資料から「英国の階級社会を否定するために逆にした」とまではいえません。また、連隊・学校・クラブへの所属と、社会階級は同じものではありません。

記事として読み取れるのは、所属を表す柄を、所属を問わず選べる装いへと捉え直した、というブランド側の考え方です。英国で育ったスタイルを受け継ぎながら、その使い方をアメリカの顧客へ向けて変える。逆向きの縞には、そんなアレンジの面白さがあります。

レップは生地、ストライプは柄

もう一つ、名前についても整理しておきましょう。日本公式の解説では、レップタイは光沢のある畝織りの生地を使ったネクタイとされています。斜めのストライプは、その代表的な柄の一つです。

レップは生地に関する言葉、ストライプは柄に関する言葉です。斜め縞のネクタイがすべて特定の連隊のものというわけでも、レップタイが必ず所属を示すというわけでもありません。

逆縞の歴史を、すべての製品のルールにしない

日本公式が紹介する定番の縞は、正面から見て右下がりです。ただし、この沿革から「ブルックスのストライプタイはすべて英国と逆向き」と判断することはできません。逆縞を取り入れた歴史と、個々の製品の仕様は分けて読みます。

ブルックスブラザーズが扱ってきたネクタイには、アイリッシュポプリンのものもあります。2024年の公式発表では、シルクとウールを使ったこの生地を英国のStephen Walters社で再現し、米国のMANE社で仕上げたモデルを紹介しています。出典:日本法人・2024年アーカイブコレクション発表

この例からも、生地の呼び名、生地の生産地、ネクタイを仕上げる国は、それぞれ確かめたい情報です。アイリッシュポプリンという名前だけで英国製と決めたり、製造国だけで縞の向きを決めたりせず、実物の表側とタグを合わせて見ます。縞の向きだけでブランドや真贋を判定することも避けたいところです。

胸元の柄を、自分の装いとして選ぶ

古着のネクタイを選ぶとき、色や幅と一緒に、その柄が持っていた背景にも目を向けてみると楽しみが増えます。実際の連隊や学校のタイなら、その所属の意味を調べることも、品物を知る一歩になります。

ブルックスブラザーズの逆縞については、所属の印を、より広く楽しめるスタイルへ変えたというブランドの説明を思い出してみてください。見慣れたストライプの向こうに、英国の伝統をアメリカでどう着るか、という工夫が見えてきます。

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